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ゼロゼロ融資の出口に向けた「オール三重」の経営支援

「週刊金融財政事情」3月18日号に、当協会総務部副部長(兼業務統括課長)の長澤が執筆した記事「ゼロゼロ融資の出口に向けた『オール三重』の経営支援」が掲載されました。
掲載された記事の内容をご紹介します。

官民一体で経営者の「自走」を支援する採算可視化と課題分析

三重県の金融機関や信用保証協会など中小企業支援の関連組織では、官民一体で「三重県中小企業支援ネットワーク推進事業」(以下、み・エールbiz)に取り組んでいる。これは、ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)を利用した中小企業者が借入れを順調に返済し、事業を継続的に発展させるための支援策の一つである。本稿では、み・エールbizの事務局を務める当協会の立場から、中小企業への経営支援・伴走支援の課題や、現在に至るまでの取り組みなどを紹介したい。

三重県信用保証協会 総務部 副部長

長澤 良二

信用保証協会として訴えた返済局面での支援の重要性

全国に51ある信用保証協会は、長年、公的保証機関として中小企業者の金融円滑化を通じて地域経済の維持・発展に貢献してきた。特に近年では、1990年代後半の金融危機や2008年のリーマンショックに端を発した金融危機などで、中小企業金融のセーフティーネット機能を発揮してきた。

18年4月には信用保証協会法が改正され、中小企業に対する「経営支援業務」が信用保証協会の業務として法律上、明記された。そうした中で迎えたのがコロナ禍だ。ゼロゼロ融資の取り扱いを開始した20年5月以降、三重県では業界団体や支援機関が一堂に会した緊急経済会合が県の主導で6回開催された。その中で当協会が訴えたのが、ゼロゼロ融資が返済局面を迎えた際の経営支援の必要性だった。

その後、緊急経済会合での当協会の提言をきっかけに、中小企業者がゼロゼロ融資を返済していくための施策について県から相談を受けた。当時、保証協会での経営支援業務がスタートしてからわずか2年。当協会としては、経営支援のノウハウ・経験不足といった課題を抱えていた。

ゼロゼロ融資の返済開始までには据え置き期間が設定されているものの、コロナ禍で悪化した業況を改善するまでの時間は限られる。そこで、当協会だけでなく、経営支援のノウハウや経験を有する地元金融機関や商工団体へ連携を依頼した。その結果、21年4月、金融機関や商工団体、県と連携して、三重県全域の中小企業者に対するスピーディーかつ丁寧な経営支援の実施を目的とした事業「み・エールbiz」が立ち上がった。

ノウハウ共有で当初の課題を克服

当協会はみ・エールbizの事務局を引き受け、その取り組みは10人の経営改善コーディネーターでスタートした。経営改善コーディネーターは、県内金融機関の現役職員や商工団体の経営指導員経験者、中小企業診断士、当協会の職員で構成されている。

支援対象は、借入れの返済を正常に進めている中小企業者だ。こうした企業が、ゼロゼロ融資による返済負担増加に耐えられるように経営支援を行うことを目的としている。

もっとも、当初は次のような運営上の課題を抱えていた。

①経営支援のノウハウや経験の不足

②ゼロゼロ融資の返済財源を確保するまでの時間が残されていない

③ゼロゼロ融資で協会利用者が急増する一方、経営支援を担う人員が不足

このうち課題①と②の緊急性が高い。そこで、まず課題①の解決に向け、経営改善コーディネーター間でのノウハウの共有を進めた。特に中小企業者との距離が近い金融機関の現役出向者同士が、出向先の垣根を越えて経営支援のノウハウを共有した。これにより、経営改善コーディネーターの目線(経営支援、伴走支援の考え方)をそろえることができた。

出向者の知見を借りることで、課題①は解決の兆しが見えてきたが、②および③の解決にはもう少し時間が必要だった。そのため、1年目は限られた人員で、中小企業者の声を聴くことに注力した。具体的には、経営改善コーディネーターが650者からヒアリングを実施した。これが2年目以降の方向性を確立することにつながった。

単なる専門家派遣でなく経営課題解決を主導

み・エールbizは経営改善コーディネーター同士のノウハウ共有と中小企業者との対話を経て、次のような経営支援の方向性を確立した。

まず、管理会計・原価管理の「見える化」により採算を可視化し損益計算書(P/L)改善につなげる。次に、対話と傾聴により経営課題の真因をつかみ、経営者による経営改善の自走を目指す。その上で、連携機関(伴走支援者となる機関)との分担を明確にし、CAPDoサイクルによる伴走支援体制を構築する(図表1)。

方向性が明確になったことで、経営改善コーディネーターによる経営支援のスキームも完成した(図表2)。現在、このスキームに基づいて1企業当たり約10回程度の面談を行い、3~4カ月かけて行動計画を策定している。

最も大事なことは、経営改善コーディネーターの前さばきである。ここで経営課題の設定を見誤ると、行動計画を策定した際に経営者に納得感を与えられず、結果的に経営改善に向けた自走は行われない。

そこで、事業の本質を見て経営課題を設定することが肝になる。経営改善コーディネーターは、中小企業者の決算書を過度に参考にしないよう心掛けている。経営支援に当たって決算書を見ると、どうしてもバランスシート(B/S)改善のバイアスがかかり、事業の本質を見る妨げになりかねない。

最後に、単なる「専門家派遣事業」にならないことを意識している。もちろん、経営課題の内容によっては専門家を活用するが、その目的は経営課題の見える化にある。あくまでも、経営支援のキーパーソンとなるのは経営改善コーディネーターである。

こうした考えをもとに、3年間で405者に対して行動計画を策定し、中小企業者が経営改善に向けて「自走」すべく背中を押してきた。経営支援先の中小企業者からは「相談相手ができてよかった」「同業他社や異業種の先進事例が今後の経営の参考になった」などの声が届いている。

23年10月には当協会と三重県、三重県に本店を構える五つの金融機関と「三重県内の中小企業・小規模企業に対する財務改善に向けた伴走支援の連携・協力に関する覚書」を締結した。同年11月には物価高を踏まえ、価格転嫁への支援も行えるよう、取引価格適正化コーディネーターを新たに3人追加し、態勢を強化している。み・エールbizがスタートして3年が経過したが、ようやく前出の課題②および③の解決の兆しが見えてきた。

推進を目指す三重モデル

現在、「オール三重」での経営支援をさらに推し進めるため、連携機関との伴走支援体制の構築を目指している。具体的には、伴走支援者と経営改善コーディネーターの事業領域の分担や責任・権限を今まで以上に明確化する。それにより、CAPDoサイクルを効果的に回し、定量・定性の両面で行動計画の効果検証を行う態勢を整える。

その一環として24年度は、22年度に行動計画を策定した191者の検証を行っている。定量面では、伴走支援者がアフターフォローを行い、計画の実施状況や経営改善の進捗などを確認する。伴走支援者と経営改善コーディネーターは決算書を共有し、売上高増加率や営業利益率の測定も行う。定性面では対象の中小企業者へのアンケートを実施し、今後の経営支援の改善につなげていく。

実際にゼロゼロ融資や、「伴走支援型特別保証」利用後の動向を分析すると、24年10月時点で、当協会における代位弁済率と条件変更率の平均は全国平均と比べて低く抑えられている。しかし、伴走支援型特別保証でゼロゼロ融資残高と同額を借り換え、再度の据え置き期間を設定しているような中小企業者もいる。そうした事業者には、資金繰りが厳しく、将来的に条件変更や代位弁済に至ってしまう先も含まれていると推測する。

すなわち、据え置き期間中に経営支援を必要とする中小企業者はまだまだ存在する。そうしたなか、目下行うべきことは二つある。

一つ目は、この経営支援の取り組みを、三重県内により広めることだ。管理会計・原価管理を適切に行うことで採算を可視化し、P/L改善に資する経営支援をさらに早く普及させていきたい。経営支援が必要なより多くの中小企業者が、採算可視化を切り口に経営改善を自走することが理想だろう。

二つ目は、中小企業者を応援できる人材をさらに増やしていくことだ。み・エールbizに出向している金融機関職員は、実践的な経営支援・伴走支援を経験し、それぞれの所属に戻っていく。出向期間終了後は金融機関でこのノウハウを生かせる仕組みを充実させることが欠かせない。それにより、三重県全体での伴走支援体制が成熟していくことを目指す。

そのためにも、今後も金融機関からみ・エールbizへの現役職員の出向体制を維持することが必要だ。そして、事務局である当協会は今まで以上に地域の方から信頼されるために、県内の中小企業支援のハブ機能をより一層発揮することが求められるだろう。

今後の取り組みにさらなる協力と支援をお願いするとともに、この取り組みが全国の中小企業支援者のさらなる熱意と「考動力」につながることを期待している。